『国宝』と研究から学ぶ糖尿病予防|今すぐできる5つの習慣

 映画『国宝』では、親子で糖尿病を患う姿が描かれていました。日本で「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病予備群」の合計は2,000万人と推計されています(令和4年糖尿病診療の現状)。

 糖尿病は放置すると、失明や足の切断、腎不全、脳血管障害、虚血性心疾患などの深刻な合併症を引き起こします。この記事では映画のエピソードと最新研究を交えながら、糖尿病予防や改善に必要な「食事・運動・ストレス管理」について実践しやすい方法を解説します。

糖尿病の怖さは合併症にあり

 糖尿病の怖さは、尿に糖が出ることではありません。血糖値の高い状態が続くことで細い血管のある目や足先、腎臓、神経が少しずつダメージを受け、日常生活に支障をきたす合併症を引き起こすことにあります。

 とくに膝から下の血管が詰まりやすく、冷えやしびれ、痛み、潰瘍ができたり壊死したりして、足を切断せざるを得なくなることも……。また、目にある血管がダメージを受け、失明することもあるのです(糖尿病性網膜症)。

 重度になると尿を排出できなくなり、人工透析が必要になるケースもあります。糖尿病の約9割を占める「2型糖尿病」は、食事・運動・睡眠などの生活習慣と深く関係しています。糖尿病のほかに高血圧・脂質異常症・喫煙習慣があると、動脈硬化が進行しやすくなるため、注意が必要です。


糖尿病の初期症状と注意すべき飲みもの

 糖尿病の主な初期症状は、以下の通りです。
・異常にのどが渇く
・尿の量や回数が増える
・食事量が変わらないのに体重が減る
・尿のにおいが強くなる
・尿が泡立ち、消えにくい

・疲れやすい、だるい
・傷の治りが遅い
・視力の低下や目がかすむ
・手足がしびれる(末梢神経障害)
・感染症にかかりやすい
 
 初期の段階では自覚症状がないことも少なくありませんが、尿の状態や回数はかんたんにチェックできます。朝起きてから寝るまでの排尿は、5~7回程度が目安です。頻尿が気になる方はこちら

 尿は腎臓で血液をろ過してつくられ、約99%は血管内に再吸収されます。しかし、血糖値が高いと再吸収しきれず排出されてしまうため、喉が渇いてたくさん飲んだり、尿量が増え、水分を失うとさらに血糖値が高くなってしまいます。
 のどが渇いたときのビールはおいしいですが、アルコールや甘い飲みものは血糖値を上げやすく、脱水症状に陥りやすいので夏場はとくに気をつけましょう。

 野菜や果物のジュースも糖質が多く、液体は吸収が速いため、血糖値が上昇しやすくなってしまいます。固形のものをよく噛んで食べることで血糖値の上昇は緩やかになるのです。

 YEBISU BARでビールをいただいてから映画『国宝』を観ましたが、約3時間、眠くなる余地がないほど惹きつけられました。
 ちなみに1日のアルコール摂取量の目安は約20ml(日本酒1合、ビール中瓶1本500ml、焼酎100ml、ワイングラス2杯、ウイスキー・ブランデー60ml程度)までが適度とされています(個人差あり)。


糖尿病でも糖質制限は要注意

 単純に「血糖値を下げればいい」と考えて、ごはんを減らす方もいらっしゃるでしょう。しかし、自己流の糖質制限はとても危険です。ここでは、最新研究をもとに、糖尿病予防や改善に効果のある食材と避けたいもの、調理方法や食べ方を紹介します。 ※疾患のある方は専門医にご相談ください

血糖値を上げない調理方法

 低GIや低GL食品なら安心して食べられると思っていませんか? 食事は「何を食べるか」だけでなく、「どう調理するか」も大切です。米ハーバード公衆衛生大学院の最新研究では

・フライドポテトを週に3回以上食べる人は、2型糖尿病のリスクが約20%高まる

という結果が示されました。その一方で、同じジャガイモでも、茹でたり焼いたりする調理法では、糖尿病リスクの増加は見られませんでした。揚げるより炒める、炒めるより「焼く・茹でる・蒸す」ことをおすすめします。

血糖値を上げない食材と食べ方

 血糖値への影響を考えると、食べる順番も大切です。野菜やきのこ、海藻など食物繊維を含むもの、魚や肉、卵などたんぱく質を含む食品を先にいただきましょう。コース料理のように、ごはんなどの炭水化物を含む食品を最後にするのがポイントです。

 ワカメ・コンブ・ヒジキ・モズク・メカブなどの海藻を食事に取り入れると、2型糖尿病やメタボ・肥満のリスクを減らせます。また、2型糖尿病の人が朝食でタンパク質を適度に摂ると、朝食と昼食の両方で血糖値の上昇を抑えられることも報告されています。食物繊維が糖の吸収をゆっくりにし、たんぱく質や脂質が胃から腸への食べ物の移動を遅らせるため、同じメニューでも順番を変えるだけで、食後の血糖値の変動が少なくなるのです。

 よく噛んでゆっくり食べることは、食べすぎ防止と血糖値の安定に役立ちます。特に内臓脂肪が多いとインスリンの効き目が悪くなり、血糖値が上昇しやすくなるため、お腹まわりの気になる方は気をつけましょう。

超加工食品が血糖値を上げる

 血糖値を安定させるためには、加工食品や食品添加物を減らすことも大切です。2025年、フランス国立衛生医学研究所の研究で、食品添加物を複数組み合わせて摂取している人は、そうでない人よりも糖尿病になる可能性が高いことがわかりました。

・人工甘味料入り飲料に含まれる複合添加物は糖尿病のリスクを13%上げる
・スナックや菓子に多い超加工食品
の複合添加物は糖尿病のリスクを8%上げる

 加工食品を選ぶ際は、パッケージの表示を確認しましょう。

 とくに乳化剤は腸内環境を乱し、炎症や代謝障害のリスクを高め、インスリン抵抗性や糖尿病の発症につながる可能性があります。

・超加工食品を1日1食多く摂取するだけで、心血管疾患関係の死亡リスクがおよそ50%高まる
・超加工食品の摂取量の増加は肥満リスクを55%、睡眠障害を41%、2型糖尿病の発症を40%、うつ病のリスクを20%増加させる
・ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉に含まれる亜硝酸塩の摂取量がもっとも多い群では、もっとも少ない群に比べ、2型糖尿病の発症リスクが1.5倍高い

 といった研究結果も出ています。超加工食品は糖尿病だけでなく、がんのリスクも高めるので減らしていきましょう。


運動していても糖尿病になる理由と予防法

 血糖値を上げる原因は、食事や運動不足だけではありません。ストレスも血糖値を上げることがわかっており、糖尿病の約30%にうつ症状があるといわれています。うつになると、甘いものやタバコ、アルコール摂取量が増え、食事や運動への関心が減ってしまうことも、糖尿病を悪化させる大きな要因となります。

ストレスが血糖値を上げる

 強い精神的ストレスや身体的ストレスがかかると、体は「コルチゾール」や「アドレナリン」「ノルアドレナリン」などのホルモンを出します。これらのホルモンは血糖値を上げる働きがあり、慢性的なストレスが続くと血糖コントロールを難しくしてしまうのです。

 映画『国宝』では、子役のころから厳しく指導されていた様子が描かれていました。その様子について、市川團十郎さんは「あんなになまぬるくなかった」「もっと激しく、厳しくて苦しかった、つらかった」とYouTubeで仰っていました。

 映画で糖尿病を患っていた親子は、舞台での緊張感に加え、人間関係や借金など相当のストレスがあったでしょう。遺伝の影響もあるかもしれませんが、ストレスが続いて慢性的に交感神経が緊張していると、血糖値が上がり続けるだけでなく、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が低下するのです。

「笑い」がストレスホルモンも血糖値も下げる

 ストレスホルモンを減少させる方法の一つが「笑う」ことです。落語や漫才の鑑賞、「笑いヨガ」などで笑うだけで、HbA1c(血糖コントロールの指標)が改善することは複数の研究で明らかになっています。笑うと自然に腹式呼吸になるのもいいですね。

 世界的な遺伝子学者の故 村上和雄博士は、糖尿病に関係する遺伝子が、笑いの前後で変化するのを電子顕微鏡で捉えました。村上先生は「多くの遺伝子は眠っている。眠っているよい遺伝子のスイッチをオンにして、起きている悪いスイッチを消せば、私たちの可能性が何倍にも何十倍にも広がる」と仰っています。

 生きているかぎりストレスをゼロにすることはできませんし、笑えないときもありますよね。ストレスを感じたときにうまくかわしたり、没頭できる趣味をもっておくことも大切です。チベットの健康長寿の秘訣も参考にしてみてください▼

 食事や運動について個人差はありますし、無理は禁物ですが「笑う」「愛する」時間も大切にしたいですね。

睡眠不足も糖尿病のリスク要因

 米国の中年女性(主に看護師)を対象とした研究で、次のような結果が出ています。

・夜型の人の方が糖尿病の発症率が高い
・朝型で夜間勤務を10年以上続けていた人は糖尿病リスクが高い
・夜型で夜勤勤務の多い看護師は、2型糖尿病のリスクが上昇しなかった

 勤務時間帯がその人のクロノタイプ(1日の中で眠くなる時間帯と目が冴える時間帯のリズム)と一致していれば、夜型の人でも、食事・運動・仕事などの生活スタイルを改善することで、糖尿病リスクを大幅に減らせることもわかっています。自分のクロノタイプに合わせてしっかり眠ることで、体がエネルギーを効率よく使えるようになり、血糖コントロールしやすくなるのです。

 就寝時にコルチゾールが多いと熟睡できず、体内でインスリンがうまく働かなくなり、血糖値が下がりにくくなります。また、食欲を増やすホルモン(グレリン)が多く分泌され、食欲を抑えるホルモン(レプチンやセロトニン)が減少し、つい食べすぎてしまうことも……。

 寝る前のスマホやパソコン、テレビの光は眠りの質を下げるので、就寝1時間前には画面を見ない「リラックス」する時間をもちましょう。


糖尿病予防に効果的な運動

 運動はエネルギー源として血液中の糖を使うため、血糖値を下げる効果があります。運動を続けていくと、ストレスがかかった際のコルチゾール分泌量を抑えられることもわかっています。

 また、筋量が増加すると、糖の処理能力が改善するため血糖コントロールに有効です。肥満を改善することも、インスリンの働きを高めることにつながります。動くことはストレス解消になるため、運動も取り入れていきましょう。

日常でできる有酸素運動

 有酸素運動とは、ウォーキング・自転車こぎ・水泳など大きな筋肉を使用する全身運動です。水中運動は膝への負担が少なく、有酸素運動と筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動のメリットを得られます。

 推奨される運動の目安は以下の通りですが、短い時間でも積み重ねることで効果が期待できます。

・運動持続時間は20分以上
・頻度は週に150分以上、週に3日以上
・運動時心拍数が50歳未満は100-120拍/分・50歳以降は100拍/分以内
(自覚的運動強度の「ややきつい」または「楽である」程度にする)

 1日の平均歩数が8,000歩を超えると、糖尿病の発症率や重症化率が低くなることがわかっていますが、ストレスにならない範囲で行うことも大切です。通勤や買い物で一駅分歩く、エスカレーターではなく階段を使う、昼休みに外を10分歩くなど無理をせず、日常生活の中でできることを取り入れてみてください。

筋肉量とバランス能力を維持する運動

 2型糖尿病の遺伝のある人でも、筋力のある人は糖尿病リスクが40%以上低下することがわかっています。筋肉は糖をためておく場所でもあり、筋肉量が減ると糖を処理する力も落ちるため、筋肉量を保つことが大切です。
 特に下半身の大きな筋肉を動かすと、効率的にエネルギーを消費できます。自重で行うスクワットでも十分効果があります。推奨されているレジスタンス運動は、以下のとおりです。

・連続しない日程で週に2~3回
・1回あたり10分程度から始める
・慣れてきたら回数やセット数を少しずつ増やす

 上記はあくまでも目安です。高齢者はバランス能力も低下するため、立ったままの片足立ち、ステップエクササイズ、ヨガ、ピラティス、太極拳などもおすすめです。毎日長時間遅くまで仕事をしている人が激しい運動をすると、交感神経がつねに緊張し、血糖値が高くなる可能性もあるためがんばりすぎないようにしましょう。

 糖尿病の治療薬を服薬中の方は、血糖値が下がりすぎることで意識障害が出るリスクもあるため、運動する際には細心の注意を払ってください。実際にフィットネスクラブで、運動中に低血糖になってしまった方もいらっしゃいました。ドクターから「体重を減らすように」と言われることもありますが、一部の薬では体重が増えたり、さまざまな副作用が出たりします。そういった現場経験からも「予防が大切」と声を大にして申し上げたいのです。
 
 有酸素運動と筋トレなどのレジスタンス運動を組み合わせることで、糖を使う力とためる力の両方が高まり、血糖をコントロールしやすくなります。無理のない範囲で取り入れてみてください。自宅で運動を習慣化する秘訣はこちら


まとめ:糖尿病を防ぐ5つの習慣

 日本では糖尿病などが原因で、年間1万人以上が下肢を切断しているそうです。糖尿病は、初期のうちは自覚症状がほとんどないまま進行し、気づいたときには手遅れになっていることも……。

 これはあくまでも現場感覚ですが、糖尿病と診断されていなくても、糖尿病の初期症状が出ている人もいらっしゃいます。次の5つの習慣をできる範囲で実践してみてください。

1. こまめに体を動かす
2. よく噛んでゆっくり食べる
3. 甘い飲みものとお酒を飲みすぎない
4. 笑う・趣味の時間も大切にする
5. リラックスして眠る

 実は、私の祖母やその姉妹も糖尿病だったため、恐怖をもっていた時期もありましたが、遺伝のせいにしたところで何のプラスにもなりません。また、ストレスは誰にでもあるもの。ストレスを感じたときに「食べる・飲む・吸う」はほどほどにして、吐く・動く・笑う趣味の時間などリラックス方法をもつことで自分を守りましょう。

加藤 小百合

【参考&おすすめ書籍】

糖尿病の人が果物や野菜のジュースを飲むとどうなる? 意外な結果に

健康日本21(アルコール)厚生労働省

Potatoes may increase risk of type 2 diabetes—depending on their preparation by Harvard T.H. Chan School of Public Health

ワカメなどの「海藻」が糖尿病や肥満のリスクを低下 HbA1cが改善し内臓脂肪も減少 注目される「海の幸」

Prevent Type 2 Diabetes Blood-Sugar Spikes by Eating More Protein for Breakfast (University of Missouri)

A High-Protein Breakfast Induces Greater Insulin and Glucose-Dependent Insulinotropic Peptide Responses to a Subsequent Lunch Meal in Individuals with Type 2 Diabetes 

Food additive emulsifiers and the risk of type 2 diabetes: analysis of data from the NutriNet-Santé prospective cohort study

フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、いわゆる超加工食品の摂取による健康への影響の特性決定と評価に関する意見書を公表

Ultra-processed food exposure and adverse health outcomes: umbrella review of epidemiological meta-analyses

ハムやソーセージの添加物が糖尿病リスクを高める 「超加工食品」が糖尿病や肥満の原因?

糖尿病とこころ(厚生労働省)

「笑い」が糖尿病を改善 血糖値・体重・ストレスに良い影響 体と心にポジティブな変化が

「1日1万歩」のウォーキングが糖尿病リスクを減少 歩数をどれだけ増やすと健康効果を期待できる?

糖尿病を改善するための運動(厚生労働省)

『なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?―――病気の9割は「運動」が原因』青柳幸利 (あさ出版)

糖尿病などが原因で年間1万人以上が足切断 集学的治療で下肢救済

『医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法』近藤 誠 著(アスコム)

『薬をやめれば病気は治る』岡本裕 著(幻冬舎)

『「薬をやめる」と病気は治る 免疫力を上げる一番の近道は薬からの離脱だった』安保 徹 著(マキノ出版)

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